今回はこんな疑問にお答えします
皆さんこんにちは管理人のShuです。以前Youtubeの方でこんな質問をいただきました。(一部切り取り)

オンラインレッスンでフリートークを少しやってみたのですが使用する表現が偏ったり、語彙の範囲がいつまでも広がらなくて進歩を感じられません。
今回は「表現の幅が広がらない」という点に関して、私の考えを書いていきたいと思います。使用する表現が偏ってしまうのは初中級者あるあるですね。
たくさん勉強しているはずなのに、よくよく考えてみると大したこと言ってない。なんか使用表現が稚拙だな。気がつくといつも同じような表現ばかり使っている。
そんな悩みに関してこの記事ではこんな話をしていきたいと思います。
・言語学習は大量のインプットと少量のアウトプット??
→インプット仮説って知ってる?
→アウトプット仮説って知ってる?
→インプットとアウトプットのバランスは?
・表現の幅を広げたければパラフレーズ学習が最適(次回記事掲載)
→パラフレーズって何?
→どうやって練習すれば良いの?
ちなみに上記の悩みをお持ちということは、質問者様はもうすでに基本的な会話はできるのだろうと想定しています。つまり私の基準で言うと「HSK4級はもう受かっていて、中国語の基本文法・語彙が身についている。しかも中国語を既に自分で文を作って発信ができるレベル」=中級者として認識させていただきます。それではいきましょう。
言語学習は大量のインプットと少量のアウトプット??
第二言語習得研究に関する勉強をすることはご自身の第二言語学習を促進することに繋がりますのでお勧めです。その第二言語習得研究の中では
・言語学習は大量のインプットと少量のアウトプットが良い
とされています。ここでの少量とは“適量”だと思ってください。少量というのはよくある「1日10分!」とかでは無く、もっと長い時間を指します。しかしアウトプットを大量に行ったところで「慣れ」ては来ますが、今回の質問者様が欲しい「表現の幅」は広がりません。
当然ですがアウトプットはインプットありきのものです。学習開始段階では一言も話せませんよね?それは脳内の言語タンスの中に何も知識が入っていないからです。当然ですが、インプット量(ここでは文法や語彙などの言語知識やその他の背景知識)が多ければ多いほど、アウトプットできる幅は広くなりますよね?

100の単語しか知らない人と2000の単語を知っている人だったら当然後者の方が表現の幅は広いはずです。
しかし悲しいことに私達は「インプットされている情報の全てをアウトプットできるわけではない」と言うことに気づくんですね。母語にも当てはまるかもしれませんが、私達は言語学習をする際に主に2種類の語彙群を形成しています。
・Passive Vocabulary :受容的語彙群=知識として知っている
・ Active Vocabulary :積極的語彙群=知識として知っていて、かつ、使いこなすことができる
この関係性は以下の図のようになっていて、大量のPassive の中に Activeがあります。そうです、ActiveがPassiveを上回ることは無く、同様に、インプットした知識の幅をアウトプットが上回ることもありません。つまり表現の幅を増やしたかったらアウトプットをひたすらやるのでは無く、まずはインプットをとにかく増やすことを優先すべきなのです。

さて、ここまでで一旦インプットの重要性は理解してもらえたと思います。次にインプット仮説、アウトプット仮説を順に紹介し、両者のバランス関係について考察していきたいと思います。
インプット仮説

「インプット仮説」( Krashen1985 )は、人が言語を学ぶ方法は主にメッセージを「理解する」ことによると主張するものです。「理解可能なインプット」が十分与えられれば、それだけで習得は十分可能であり、アウトプットや意識的学習、誤用訂正などはごく限定的な役割を果たすに過ぎないとしています。
つまりアウトプットは重要では無く、インプットが言語学習において最大の役割を果たし、加えてこの主張にはこんなことも言われています。
「これは、言語の学習者は彼らの現在のレベルより、僅かに高いレベルの言語のインプットを理解した時に進歩するとする。Krashenは、このレベルを「i+1」と呼び、「i」が現在の言語習得のレベルで、「+1」が次のレベルとの差分とした(Wikipediaより)」
要はインプットの際に重要なのは「自分の持つレベルの+1をやりなさい」と言うことです。確かに同じレベルのものをずっとやっていても知識は増えませんよね。検定とかだって徐々に級が上がっていきますし。
さて、なぜこのインプットだけで言語が上達するとされたのか?それは「予測文法力」と言うものが大量のインプットによって獲得されると考えられたからです。
予測文法力とは簡単に言うと会話において話し相手が次にどのような単語を言うのか予測する能力です。会話では高速に脳内処理をしなくてはいけませんから、この力が欠かせません。予測文法力は言語のリスニング力を左右し、スピーキング力のベースになるのです。
受容バイリンガルの存在がインプット仮説の穴?!
しかしながら実はインプットだけでは話せるようにはならないことが実証されています。それは「受容バイリンガル」の存在です。
受容バイリンガルとは「聞いて理解はできるが、話せないバイリンガル」のことです。
例えば母親が中国人、父親が日本人である家庭に生まれたハーフがいるとします。皆さん誤解しがちなのが「ハーフなら話せて当たり前」と言う考えです。学校では日本語、父親とも日本語、中国語は母親とだけ、しかも会話と言っても「中国語で言われ日本語で返す」と言う環境下で育つと、メイン言語は日本語になりますね。中国語は母親とのみ、しかも「聞く」しか習慣が無いと話せないバイリンガルになります。(これは一例です)
これは非常に面白い例で、同時にインプット仮説の反例となりました。つまり「インプットだけでは話せるようになれるとは限らない」ことが証明されてしまったのです。
どうやらインプットは必要条件ではありますが十分条件では無いようです。次はこれに異を唱えたアウトプット仮説についてお話しします。
アウトプット仮説

アウトプット仮説を提唱したカナダのトロント大学第二言語教育学教授である メリル・スウェイン氏 (Merrill Swain)氏は「理解可能なインプットは必要だが、それだけでは語学力の向上には不十分であり、アウトプット(書く、話す)が必要である」としています。
また更に「読む、聞くと言った行為では十分な理解が出来ていなくてもごまかしが出来るのに対し、書く、話すと言ったアウトプット行為ではそのごまかしは効かない。アウトプットにより自分の足りない部分を認識することで、次のインプットをより効果的に行うことが出来る」とも言っています。
つまり、アウトプット仮説とはインプット仮説 + アウトプット(書く、話す)をすることで、語学力が向上するということです。
また、正確さに貢献するとされる次の機能をあげて、強制的なアウトプット(pushed output)の機会がその機能を担うとしていると主張しました。
(1)「気づき」の機能 : 学習者はアウトプットの機会に、自分の言いたいことと言えることの間にあるギャップに気づき、そのことが新しい知識を得たり、すでに得ていた知識を強化するきっかけになる。
(2)仮説検証の機能 : アウトプットは、学習者が自らの中間言語の仮説を検証する機会である。アウトプットの結果、仮説が誤っているとする否定的なフィードバックを得れば、中間言語の法則を修正することにつながる。
結局はインプットとアウトプットの両方が大切と言う結論なのですね。
インプットとアウトプットのバランスは?
さて上記にてインプット仮説とアウトプット仮説について説明し、結局両方とも大切だよと言う話をしてきました。
日本人の多くはインプットもアウトプットの両方とも圧倒的に量が不足していると言われています。ここでの主張はあくまでも「大量のインプット」と言われていますので、本を読んだりテレビを見たりして大量にその言語に触れると言うことも必要になると思います。
経験談としてはアウトプットは重要ですがアウトプット過多になると成長が止まると考えています。インプットが多ければPassiveが増えて、それだけアウトプットできる量が増えますので、最初の主張の通り、やはり大量のインプットと少量のアウトプットが最適であると言って良いでしょう。
ですので、「なんか表現の幅が広がらないな…」と悩んだら、まずはアウトプットを闇雲に増やすのでは無く、インプット量を増やしてみてください。
表現の幅を広げたければパラフレーズ学習が最適
さてここから具体的に表現の幅を広げてくれるパラフレーズ勉強法に関して書きます…と思ったのですが記事が長くなりすぎちゃうので今回は一旦この辺で。具体的なパラフレーズに関しては下記リンクから飛んでください。